業務委託契約書はどっちが作る?発注企業側が作った方が良いケースも多い

業務委託契約を結ぶ際、「契約書は発注者と受注者のどちらが用意するべきか?」という疑問を持つ方は少なくありません。

実際にはどちらが作っても問題ありませんが、特に発注企業がフリーランスや小規模事業者へ業務を依頼する場合には、発注側が契約書を用意した方がスムーズに進むケースが多くなっています

その理由はシンプルで、フリーランスや小規模事業者の中には、

  • 契約書の作成が苦手
  • 古いひな形しか持っていない
  • そもそも契約書を用意しない

というケースが少なくないためです。発注側が事前に契約書を準備しておけば、やり取りの手間を減らせるだけでなく、自社の希望条件を明確に反映させた形で契約を進められるというメリットもあります。

一方で、受注者にとって著しく不利な条件が盛り込まれる可能性もあるため、どちらの立場であっても「契約書の内容をきちんと確認する」ことは欠かせません

本記事では、「どちらが契約書を作成すべきか」というテーマについて、状況別に整理しながら解説していきます。

契約書の作成や見直しでお困りの方は、発注側・受注側を問わず、アロー行政書士事務所までお気軽にご相談ください。私自身、行政書士としての経験に加え、フリーランスとしての受託経験・企業側としての発注経験も豊富にあります。

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契約書は基本的にどちらが作っても良い

業務委託契約書は、発注側・受注側のどちらが作成しても基本的に問題はありません。契約は、双方の合意があれば成立するため、どちらが用意しても適切に内容が整理されていれば有効です。

ただし注意すべきなのは、下請法やフリーランス新法(保護法)などの法令が関係する場合です。これらの法律は立場の弱い受注者を保護する目的があるため、発注者が一方的に有利な契約書を作成したとしても、それが常に有効とは限りません。法令違反となるリスクがある点には十分な注意が必要です

発注企業が契約書を作成すべきケース

業務委託契約においては、発注側が契約書を用意することで、取引を円滑かつ安全に進められる場面が多くあります。特に以下のようなケースでは、発注企業が契約書を作成することが望ましいといえます。

1. フリーランスや小規模事業者との契約の場合

フリーランスや小規模事業者が相手の場合、受託者側で契約書を用意できなかったり、内容が不十分であったりすることがあります。
また、古いひな形を流用していたり、現在の法令に対応していないケースも少なくありません。
このような場合に発注側が契約書を用意することで、トラブルを未然に防ぐことができます。

さらに、下請法やフリーランス保護新法が適用される場合には、発注側に契約書の交付義務があるため、法律面からも発注者が主体となって契約書を整備する必要があります。

2. 法務リスクを統一的に管理したい場合

自社で契約書のフォーマットを統一しておけば、各取引での条件管理やリスク対応がしやすくなります。
契約トラブルが発生した際も、事前に定めた内容に基づいて社内対応を進められるため、法務・コンプライアンス体制の観点からも合理的です

3. 継続的・反復的な発注を想定している場合

複数の受託者に対して同様の業務を委託する、あるいは同一の受託者に継続的に発注する場合には、標準化された契約書を整備しておくことで、毎回の契約交渉や手続きを大幅に効率化できます

受託側(フリーランス・企業)の契約書を利用するケース

一方で、受託者側が契約書を用意する方が適切な場面もあります。主に以下のようなケースです。

1. サービスが高度に専門的である場合

IT開発や専門コンサルティングなど、業界特有の契約条件(著作権、納品形態など)を含む業務では、受託者側が業界標準に即した契約書を用意していることが多く、その契約書をベースに話を進める方が実務に即していることがあります。

2. 業界標準の契約書が存在する場合

たとえばIT業界では「情報サービス産業協会(JISA)」などが契約書のモデルを公開しており、これに準じることが信頼の担保にもなります。
このような場合、発注側が独自の契約書を提示するよりも、既存の業界標準フォーマットに従う方が合理的な場合があります。

3. 発注者に一方的に有利な契約条件を回避したい場合

特に報酬の支払時期や著作権の扱いについて、発注側が不当に有利な条項を設定することがあります。
受託側がしっかりと契約書を準備することで、報酬の未払いリスクや成果物の不適切な扱いなどを防ぐことができます

仮に発注側の契約書を使うにしても、自分たちで予め契約書を用意しておくことで、リスクを把握することができるため、受託者側も作成しておくに越したことはありません。

どちらが作るべきか?業種や案件ごとのポイントまとめ

一概にどちらが作る、作らないと言い切れない部分もありますが、以下もご参考ください。

業種・案件タイプ発注側が作る理由受注側が作る理由
IT開発業務内容が複雑で、発注仕様を明確にしておく必要がある。知財の取扱いも発注側が定めたいケースも多い。開発会社が業界標準の契約書を用意しており、著作権・成果物の扱いを定型化している。
コンサル・マーケティング継続的な業務委託を前提に、発注企業側が契約管理を一元化したいケースがある。コンサルタント自身が独自の契約書を持っており、業務範囲や責任範囲を明確にしている場合が多い。
ライティングSEO記事など簡易業務では発注側が条件を提示して管理することが多い。税務・医療・法律など専門性の高い内容では、著作権等を明示するためにライターが契約書を用意することがある。
映像制作・アート成果物の著作権や納品形態を発注側が管理したい場合が多い。クリエイター側が著作権を保持し、使用条件を明示した契約書を提示するケースがある。
製造業下請契約が中心で、下請法にもとづき発注側が契約書作成の必要がある場合も多くなっています試作開発やOEMなど、受注側が設計・技術的主導権を持つ場合や、大手メーカーが主導する場合には、受注側が契約書を提示するケースも

あくまで一例となり、必ずこうであるということではありません。

どちらの契約書を利用するにせよ発注者側はもちろん受注側も契約書のフォーマットを持っていた方が良い

契約書は、発注側・受注側どちらが用意しても構いませんが、いずれの場合であっても、双方が自社の契約書フォーマットを保有しておくことが望ましいと言えます。
特に発注者側は、以下のような理由から、あらかじめ契約書のひな形を整備しておくことが重要です。

発注者が契約書フォーマットを持つべき理由

1. 契約締結をスムーズに進められる

毎回、受託者に契約書の提示を依頼したり、ゼロから作成を始めたりすると、契約交渉や修正対応に時間がかかり、業務開始が遅れるリスクがあります。
標準フォーマットを持っていれば、社内承認フローも簡略化でき、迅速な契約締結が可能になります

2. 契約条件を統一でき、管理が容易になる

受託者側の契約書を毎回採用していると、契約条件が案件ごとにバラバラになり、法務・経理・現場での管理が煩雑になります。
自社のフォーマットを使えば、業務内容や支払条件、納期などを一貫性のある形で統制できます。

3. 他社の契約書との比較・交渉がしやすくなる

受託者から契約書を提示された場合も、自社のフォーマットと比較すれば、どこが違うのか、どこにリスクがあるのかが明確になります。
その上で、「この条項は自社フォーマットに合わせたい」といった形で、根拠のある交渉がしやすくなります

4. 契約リスクを回避できる

著作権や商標権などの知的財産権の帰属問題、納品物の瑕疵担保責任、秘密保持義務などは、契約書の内容によって大きくリスクが変わります。
受託者側の契約書ではこれらの条項が曖昧だったり省略されていることもあり、トラブル防止の観点からも発注側で重要条項を押さえた契約書を準備しておくべきです。

5. 自社にとって不利な契約を避けられる

受託者側の契約書は、その立場に有利に作られていることが一般的です。
たとえば、「成果物の定義が不明確」「修正回数の制限がない」「報酬の支払時期が遅い」など、発注者にとって不利な内容を含む場合もあります。
自社フォーマットをベースにすれば、過度なリスクを負わず、適正な条件で契約を締結できます

受注者も契約書フォーマットを持っておくべき理由

契約書は発注者側が用意するものと思われがちですが、受注者側が自ら契約書を提示できるようにしておくことも非常に重要です。以下のような理由があります。

1. 不利な契約条件を回避できる

発注者側が提示する契約書には、納期遅延時の過剰な損害賠償責任や、一方的に著作権を譲渡させられる条項など、受注者にとって不利な内容が含まれることがあります。
自ら契約書を提示できれば、自分にとって不当な条件を未然に防ぎ、適正な契約関係を主張することができます

2. 専門性のある業務内容を明確化できる

専門的な業務(例:コンサルティング、クリエイティブ制作、IT開発など)では、成果物の定義、作業範囲、知財の取扱いなど、自社業務に即した契約条件をあらかじめ明示することで、後のトラブルを回避できます

3. 支払い条件を適切に設定できる

発注者が作成した契約書には、支払サイトが「末締め翌々月払い」など、受注者側に資金繰りの負担を強いる条件が記載されていることがあります。
自ら契約書を提示できれば、希望する支払条件(例:納品後30日以内)などを交渉の出発点にできます

4. 信頼性のある事業者として評価されやすい

契約書のフォーマットをきちんと整備している受注者は、業務への意識が高く、信頼できるパートナーとして評価されやすい傾向があります。
特に企業との継続的な取引を目指す場合は、契約面での体制整備もビジネス上の重要な武器になります。

5. リスク管理・証拠保全の観点から有効

契約書は万が一トラブルが発生した際の法的証拠となる重要書面です。自ら契約書を提示し、交渉を記録として残すことで、後日の言い分の食い違いなどに対しても備えることができます。

ひな形として持っておくべき契約条項

発注側が契約書を用意する場合、以下の項目を含めておくことが望ましいです。
ただし、業務委託といっても業種や案件により内容は大きく異なるため、あくまで参考例としてご確認ください。

1. 業務の範囲・契約の目的

どのような業務を委託するかを明確に定義します。
また、追加業務が発生した場合の取扱い(別途協議・追加料金発生等)も記載しておくと安心です。

2. 報酬・支払条件・納品基準

報酬の金額、支払方法、支払期限などを明確にします。
また、納品基準と連動した支払条件(検収後支払い等)を定めることでトラブルを防げます。

3. 納品・検収

納品の形式、期限、検収の有無・期間を具体的に記載します。
不備があった場合の修正対応などもあわせて明記します。

4. 著作権・知的財産権の帰属

成果物の著作権がどちらに帰属するかを明確にします。
また、二次利用の可否や著作者人格権の不行使についても記載しておくことが重要です。

5. 秘密保持義務

契約や業務の過程で知り得た情報を第三者に漏らさないよう、秘密保持に関する条項を設けます。
契約終了後も義務が継続する旨を記載しておくのが一般的です。

6. 契約期間と解除条件

契約の開始日と終了日、また中途解約が可能な場合はその条件(通知期間、違約金等)を記載します。
なお、契約期間に応じて印紙税の取扱いが変わる点にも注意が必要です。

7. 損害賠償・免責条項

納品物に瑕疵があった場合や、契約違反があった場合の責任の所在と範囲を明確にします。
過剰な責任負担とならないよう、バランスの取れた内容にする必要があります。

8. 再委託の可否

業務の全部または一部を第三者に再委託してよいか、あるいは原則禁止とするかを定めます。
情報漏洩や品質低下を防ぐためにも重要な条項です。

9. 専属的合意管轄裁判所・準拠法

万一紛争が生じた場合に備え、どの裁判所を管轄とするか、どの法律を適用するかを明記します。
全国各地のフリーランスと取引するケースでは、自社所在地の裁判所を指定しておくことで対応が容易になります。

上記の条項をもとに、自社業務に合わせた契約書の雛形を整備しておくことで、法務リスクの低減と契約業務の効率化が図れます。必要に応じて、業種ごとの特性に応じた調整・追加も検討しましょう。

業種・業務内容別:契約書をどちらが作るかの傾向と実務例

業務委託契約は業種や契約の形態、状況によって、「どちらが契約書を用意することが多いか」の傾向が異なります。以下では、実務でよく見られる代表的な業種・契約パターンごとの傾向を紹介します。

Web制作・デザイン

フリーランスや中小制作会社が受注する場合は、受注者が契約書を用意するケースが多い。ただし、企業が大手制作会社に外注する場合は、発注側が標準契約書を持っていることもある。

IT・システム開発

要件定義の有無や契約形態(請負契約・準委任契約)によって契約書の作成主体は変わります。
発注者が契約条件を定めて契約書を用意するケースも多い一方で、契約不適合責任や仕様変更・追加費用への対応など、リスクの所在を明確にしたいという観点から、受託者側が契約書を提示するケースも少なくありません。
そのため、実務上は案件の内容や相手方との力関係によって異なり、一概にどちらが多いとはいえない業種といえます。

コンサルティング業務

コンサルタントが自社サービスの提供条件を明確にした契約書を提示することが多い。特に顧問契約、単発案件ともに受注者主導が基本。

製造・加工業務(下請法対象)

下請法に基づき、発注者に契約書交付義務がある場合は発注者が契約書を作成する必要がある

士業の顧問契約(税理士・行政書士等)

顧問契約書は士業側(受託者)が提示するのが一般的。
サービスの範囲、報酬、免責、守秘義務等を整理した契約書を用意している事務所が多い。

業務委託契約書をどちらが作るべきか──状況によるが、発注側は備えておくべき

業務委託契約書は、発注側が用意することでスムーズに進むケースが多いものの、一律に「発注者が作るべき」とは限りません
相手が信頼できる企業や専門性の高い受託者であれば、受託側が提示する契約書をベースに検討する方が実務に即している場合もあります。

とはいえ、発注企業側が自社の契約書ひな形を持っておくことには大きなメリットがあります。
受託者から提示された契約書と比較して条件を精査できるほか、フリーランスや小規模事業者と取引する場合には、発注側が契約の主導権を持つことが、リスク管理の観点からも重要です

状況に応じて柔軟に対応しつつも、自社としての契約基準を持ち、適切な契約書を活用できる体制を整えておくことが、安定した委託関係の構築につながります
発注側・受託側の双方が納得のいく形で契約を結び、安心して業務を進められる環境づくりを心がけましょう。

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業務委託契約書を始めとして、契約書の作成でお困りであればご相談ください。

中小企業の場合、法務部門をお持ちでないケースが多くなっており、なかなか自社で準備することが難しい場合が多いかと思います。

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執筆者情報

行政書士 樋口智大

アロー行政書士事務所の代表行政書士。
ドローン飛行許可承認申請や建設業許可申請、産業廃棄物収集運搬業、古物商許可等の許認可申請と契約書作成代行業務を中心に行っています。また、自身で会社を設立し起業した経験を活かしたビジネス支援も行っています。行政書士資格の他、宅建士やドローン検定1級などに合格しています。写真撮影に凝っていた時期がありドローンもその一環でよく飛ばしていました。また、著作権相談員(日本行政書士会連合会)として登録されています。
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