Web制作の業務委託契約は、発注者(企業や個人事業主)と受注者(フリーランスや制作会社)の間で、業務範囲や報酬、納期、著作権などを明確に定める重要な書面です。契約書がないまま取引を進めると、トラブルが発生した際に解決が難しくなるため、事前に契約内容を明確にすることが不可欠です。
私自身、フリーランスとしてWeb制作に携わっていた経験がありますが、発注側とこちらの認識がズレていると感じる場面は多々ありました。そのたびに、事前に書面で取り決めをしておくことの重要性を痛感しました。
特にWeb制作の案件は、制作内容が多岐にわたり、仕様変更が発生しやすいため、契約内容を明確にしておくことが不可欠です。「どこまでが業務範囲なのか?」「著作権は誰が持つのか?」「納品後の修正対応はどこまで可能なのか?」といった点を事前に定めることで、発注側・フリーランス双方が安心して取引を進められます。
本記事では、Web制作における業務委託契約の基本から、契約書に盛り込むべき重要なポイント、双方が注意すべき点まで詳しく解説していきます。適切な契約を交わし、トラブルを防ぎながらスムーズな取引を実現しましょう。
アロー行政書士事務所では、私自身の経験も活かした業務委託契約書の作成の代行を行っております。
契約書の作成でお困りでしたら、ぜひご相談ください。
業務委託契約書とは?なぜ必要?
業務委託契約書は、発注者と受注者の間で結ばれる契約であり、委託業務の内容や報酬、納期、トラブル時の対応などを定める書面です。
業務委託契約の主な特徴
- 請負契約(成果物の納品)または準委任契約(業務遂行)に分類される
- 雇用契約とは異なり、業務の遂行方法は基本的に受注者の裁量に任される
- 双方の責任範囲を明確にすることで、不要なトラブルを防ぐ
業務委託契約書は必ずしも絶対必要というわけではありませんが、取り決めをしておかなかったことによりさまざまなトラブルに見舞われるケースが多いため、基本的に作成しておく必要があるものです。
発注側と受注側のどちらが契約書を用意すべきか?
業務委託契約書は、発注者・受注者のどちらが作成しても問題ありません。しかし、発注者側が契約書を用意したほうがスムーズなケースが多いです。
発注者側が用意すべき理由
- 統一フォーマットで管理が容易:複数の受注者と契約する際に、内容の一貫性を確保できる
- 自社にとって有利な条件を設定できる:契約条件の明確化により、リスク回避が可能
- トラブル時の対応がしやすい:契約内容に基づいて、問題発生時の責任範囲を明確にできる
作成者 | メリット | デメリット |
---|---|---|
発注者(企業) | 自社のリスクをコントロールできる / 取引のルールを主導できる | 受注者が修正を求めてくる可能性 |
受注者(フリーランス) | 自分に有利な条件を入れやすい | 発注者が契約書を拒否する可能性がある |
結果として、「発注者側がフォーマットを持っておき、受注者とすり合わせをする」のが最もスムーズな形です。
例えば、Web制作の場合
- 発注者が契約書を用意するケース:大手企業、複数の外注を抱える企業など。
- 受注者(フリーランス)が用意するケース:発注者が契約書を持っていない個人事業主やスタートアップ企業など。
Web制作の業務委託契約書に盛り込むべき項目
契約書に以下の項目を記載しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
(1) 業務内容・目的の明確化
どこまでの作業が契約に含まれるか曖昧になり、受託者側としては後から「追加作業」と主張され仕事が増えるリスクがあります。
- 制作するWebサイトの種類(コーポレートサイト、ECサイト、LPなど)
- 必要な機能(CMS導入、決済システム、フォーム制作など)
- 業務範囲の明確化(保守メンテまで含むのかや修正の頻度・回数等)
- 納品(サーバーアップロードやデータ納品等)
何をどこまでやるのかを明確にしておく必要がありますが、Web制作の場合はこのあたりは別紙として作成し、仕様をまとめる傾向にあります。そうすることで、契約書事態は比較的シンプルになり、使いまわしがききます。
(2) 契約形態(請負契約・準委任契約)
- 成果物を納品して報酬が発生する「請負契約」か、作業時間に対して報酬が発生する「準委任契約」かを明確にして双方の認識をすり合わせておく(契約書にこれは請負です、準委任ですと書いてあったしても現実的には実態が重要なためトラブルの際は総合的な判断となりますが、お互いの認識を確認するためには契約書に記載するかどうかは別にして確認は必要でしょう。また、複数の業務内容がある場合もあるでしょう。)
作って終わりではなく、成果が出る(集客ができる、SEO順位が高い等)ことまで求められることもあるため、何をどこまでやったら報酬がもらえるのか、双方の認識すり合わせをすることがトラブルを防ぎます。
(3) 納期・スケジュール管理
- 納品までのスケジュール(各フェーズの締切)
- 遅延が発生した場合の対応(延長の可否、ペナルティなど)
(4) 報酬・支払い条件
- 総額・分割払いの有無
- 支払いサイト(請求書発行後〇日以内など)
- 前金の有無
フリーランスとの取引の場合、支払い日等に関してはルールがあるため注意が必要です。
(5) 著作権・知的財産権の帰属
- 納品物の著作権を発注者が持つのか、受注者が持つのかを明確にする
- 再利用の可否(納品物を他の案件で使用してよいか)
ワードプレスでWeb制作するケースが増えていますが、ライセンスの使いまわしのトラブル等が一程度あるため注意が必要です。また、第三者ソフトウェア・ツールの活用に伴う著作権の帰属についても認識を持つ必要があるでしょう。
(6) 修正対応の範囲
- 無料修正の範囲と回数
- 追加修正の料金設定
- 修正期間の制限
(7) 秘密保持条項(NDA)
- 制作過程で知り得た情報を第三者に漏洩しないことを明記
(8) 契約解除条件
- どのような場合に契約を解除できるか(納期遅延、品質不良など)
- 解除時の違約金の有無
(9) 再委託の禁止等
- 再委託に関するルールを定めておくべきでしょう
- 再委託先から情報漏洩するケースが多いため、再委託先の管理や秘密保持義務にも注意
(10) 免責事項
- 予期せぬトラブル(システム障害、ウイルス感染など)への責任範囲
発注者が業務委託契約書のフォーマットを持っておくべき理由
受託者側が契約書を用意しても構いませんが、発注者側は事前に汎用的な契約書のフォーマットを用意しておいた方が良いでしょう。
- 契約交渉がスムーズになる
- リスク管理がしやすくなる
- トラブル時の対応が迅速にできる
受注者の契約書を使用する場合でも、そのまま使用するのではなく、自社の基準に沿った契約書と比較して契約書の修正ができるため、自社側でも契約書のひな形は用意しておいた方が良いでしょう。
WordPressなどのCMSを活用したWeb制作の契約書
近年はスクラッチでWeb制作をするケースはそれほど多くなく、ワードプレスを使ってWebサイトを制作するというケースが多いかと思います。
自社で独自にクライアント向けにテーマを開発するケースと既存のテーマをカスタマイズして制作するケースがあるかと思いますが、いずれにせよ、ワードプレスで制作する場合の注意点もございますので、以下の記事も合わせてご参考ください。
Web制作の業務委託契約書で発生しがちなトラブル事例
Web制作は発注側も受注側もトラブルに見舞われることが比較的多い業務内容ではないかと思います。特にデザイン面に関しては揉めやすい傾向です。特に受託する側は永遠に納品が完了しない案件等が出ることもあり、注意が必要です。
- 報酬の未払い・支払い遅延
- 事例: 事前にデザイン案等も確認してもらっているのに納品後にクライアントが「期待していたものと違う」と言い出し、報酬を支払わない。
- 対策: 契約書に「支払い条件」や「納品基準」を明確に記載し、着手金や中間金の設定を検討し、費用のとりっぱぐれを防ぐ。
- 修正対応の範囲をめぐるトラブル
- 事例: 何度も修正依頼が続き、無償対応を長期にわたり強いられる。
- 対策: 修正回数や範囲を契約書に明記し、クライアント側都合の追加修正は別料金とする。
- 著作権・知的財産権のトラブル
- 事例: クライアントがデザインやコードを無断で別の業者に流用する。
- 対策: 著作権の譲渡範囲を明確にし、流用・再利用の禁止事項を契約書に記載する。
- スコープの拡大(スコープクリープ)
- 事例: 当初の契約になかった機能追加やページ追加を求められる。
- 対策: 「追加業務は別途見積もり」の条項を契約書に入れる。
- 納品後の運用・保守をめぐるトラブル
- 事例: 保守契約がないのに、トラブル発生時に無償対応を求められる。
- 対策: 保守契約の有無を明確にし、無償対応の範囲を定める。
- 発注側のリスク: 未完成の納品・品質の問題
- 事例: 依頼した制作物が期日までに納品されず、スケジュールが大幅に遅れる。または、納品されたものが品質基準を満たしておらず、修正が必要だが対応してもらえない。
- 対策:成果物検収のプロセスを契約書に入れる(問題があった場合の修正対応の条件を決めておく、話し合っておく)。
- 低品質な納品
- リスク: コーディングが雑、デザインが崩れているなどの問題が発生。
- 対策: 修正回数の指定がされていても、受託者側にミスがある、不具合がある場合は対応してもらえるように記載しておく。
- 納期遅延
- リスク: 公開日までにサイトが完成しない。
- 対策: 「遅延損害金条項」を契約に入れ、納期を厳守させる(発注者側に責が無い場合)。
受注者側のリスクも大きいのですが、発注者側もいつまで経ってもサイトが完成しないなどのトラブルに見舞われることがあるため注意が必要です。
フリーランスのWeb制作者に依頼する場合はフリーランス新法(保護法)に注意
近年、フリーランス(個人事業主)との業務委託契約に関する法規制が強化されており、2024年には「フリーランス新法(フリーランス保護法)」が施行されました。
この法律は、フリーランスが不当な契約や支払い遅延などで不利益を被らないようにするためのものですが、発注者(企業)にとっても適正な契約を求められるようになったという点に注意が必要です。
フリーランス新法とは?
「特定受託事業者(フリーランス)」を保護するための法律であり、主に以下の点を義務付けています。
発注側(企業・事業者)は、適正な契約を結ぶ責任があるため、契約内容を見直す必要があります。
発注者が気を付けるべきポイント
- 契約内容の明示義務
- 口頭契約ではなく、書面または電子データで明示する義務がある
- 「報酬」「支払期日」「納期」等をしっかり定めておく
- 報酬の支払い期日
- 原則として納品から60日以内に支払う必要がある
- これを守らないと、遅延損害金の請求リスクが発生
- 不当な契約解除の禁止
- 一方的なキャンセルや報酬の支払い拒否は原則として禁止
- 「納品物が気に入らなかった」などの理由で簡単にキャンセルできない
- 不当に安い金額で委託することは禁止
- ハラスメント防止措置
- フリーランスに対するパワハラ・セクハラ行為を防止する責任がある
- 介護や育児に対する配慮
- ハラスメント窓口の設置(契約書に窓口記載するケースが増えています)
必ずしもすべてを契約書に書かなければならないわけではありませんが、基本的なことは押さえておく必要があります。
ここではフリーランス保護法の解説は本流ではないためざっくりした記載となりますが、詳細は以下のページでも解説しております。
Web制作に関する業務委託契約書の作成はアロー行政書士事務所にご相談ください
個人的な経験として、行政書士としての活動の他、フリーランスとしてWeb制作をしていたこともあります。また、企業の発注側としての経験も当然ございます。
Web制作関係の業務には一定の思い入れもあるため、業務委託契約書の作成でお悩みであればぜひご依頼いただけましたらと思います。
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