個人事業主として酒類販売業免許を取得していた方が法人化(いわゆる「法人成り」)しようと思った際に、引き続きお酒の販売を続ける場合には、法人として改めて酒類販売業免許の申請が必要です。個人で取得した免許を、そのまま法人に「名義変更」したり「引き継いだり」することはできません。
個人事業主とその方が設立した法人は、法律上はまったくの別人格です。
代表者が同じであっても、人格が変わる以上、新しい人格である法人が改めて免許を受けなければならないのです。
ただし、ゼロから取得する純然たる新規申請とまったく同じ扱いになるわけではありません。
酒税法令解釈通達に「法人成り等の場合の酒類の販売業免許の取扱い」という規定があり、一定の要件を満たせば免許が付与され、添付書類も一部省略できるなど手続きが簡素化されています。
免許の条件(取り扱える酒類の範囲や販売方法など)も原則として個人時代と同じ内容で引き継ぐことができます。
とはいえ、新規申請に近いので思ったよりも面倒だと感じる方が多いかと思います。
なぜ免許を「引き継ぐ」ことができないのか
酒類販売業免許は販売場・人格ごとに付与される免許であり、基本的に第三者への譲渡はできません。
仮に免許を他人に譲り渡しても、許認可そのものが移転することはなく、譲渡を受けた側が販売を行えば無免許販売として処罰の対象になり得ます。
法人成りも、個人という人格から法人という別人格への「主体の変更」である以上、この原則の延長線上にあります。
混同しやすいのが「相続」との違いです。個人事業主が亡くなった場合の相続については、酒税法上に承継の制度があり、相続人は一定の申告で免許を引き継ぐことができます。
一方、法人成りには相続のような「承継」制度はありません。あくまで法人が新たに免許を取得する手続きであり、ここを取り違えないよう注意が必要です。
「法人成り等の取扱い」とは(法令解釈通達 第9条第1項関係14)
国税庁の通達では、次のような営業主体の人格の変更等を「法人成り等」と総称し、要件を満たす場合に免許を付与する取扱いを定めています。
- 法人成り:酒類販売業者である個人が主体となって法人を設立する場合、または酒類販売業者である2以上の個人が合同して法人を設立する場合
- 法人の合併:酒類販売業者である法人が他の法人と合併する場合など
- 会社分割:酒類販売業者である会社が吸収分割・新設分割で営業を承継させる場合
- 営業の承継:3親等以内の親族が、身体の故障等の事情のもとで販売場・販売先をそのまま引き継ぐ場合
このうち、本記事のテーマは1つ目の「法人成り」です。ポイントは「酒類販売業者である個人が主体となって法人を設立する」という部分です。
免許を持っている個人が、その法人の代表者・主たる出資者になっていることが前提となります。免許を持っていない人が主たる株主となる会社を新設するようなケースではこの「法人成り等の取扱い」は使えず、通常の新規申請として審査されます。
法人成りの取扱いを受けるための4つの要件
通達では、法人成りで簡素化された取扱いを受けるために、次の要件をすべて満たすことを求めています。
- 既存免許の取消申請を同時提出:法人としての新規の免許申請書の提出と併せて、それまで営業してきた個人の販売場に係る免許の取消申請書を同時に提出すること。
- 人的要件・経営基礎要件を満たす:申請が酒税法第10条の人的要件(過去の法令違反や滞納等がないか)と、経営の基礎が薄弱でないこと(経営基礎要件)を満たしていること。法人申請では役員全員が人的要件の審査対象になります。
- 同一場所での営業:個人時代の既存販売場と同じ場所で営業がなされること。
- 休業場でないこと:既存販売場が休業場(1年以上引き続き酒類の販売を行っていない販売場)でないこと。
これらの要件を満たさない申請は、「純然たる新規の酒類販売業免許申請」として、通常どおり審査されることになります。
手続きの流れ
実務上の大まかな流れは次のとおりです。
- 法人の設立:定款の事業目的に「酒類の販売」を明記しておきます。
- 所轄税務署(酒類指導官)への事前相談:免許の切替えである旨と、無免許期間を作らないためのスケジュールを事前にすり合わせます。
- 申請書類の同時提出:法人としての新規免許申請書(法人成り等)と、個人免許の取消申請書を同時に提出します。
- 審査:標準処理期間は原則として2か月程度(土日祝を除く)です。
- 免許付与・切替え:法人の免許が付与されると同時に、個人の免許が取り消される運用です。これにより、販売が途切れる「無免許期間」を作らずに事業を継続できます。
必要書類と費用
提出書類は、申請書(次葉1~6含が条件により省略可のものあり)の他、法人の登記事項証明書や定款、役員の履歴・誓約書、事業の概要書などです。個人時代から変更がない部分については、添付書類を省略できる場合があります。
費用面では、新規取得と同様に登録免許税がかかります。一般酒類小売業免許などの小売業免許は1件あたり3万円、卸売業免許は1件あたり9万円です。法人成りであっても、この登録免許税は免除されません。
実務上の注意点
免許がない状態を作らないように事業を運営する必要があるでしょう。
個人の廃止が先行して法人の免許がまだ下りていない、という空白期間が生じると無免許販売になりかねません。基本的に新たな法人での免許取得後に個人の方を取り消す対応で問題ない場合が多いですが、税務署との事前調整が肝心です。
在庫の移し方にも注意が必要です。
個人事業の在庫を法人に引き継ぐ際、個人が小売業免許しか持っていない場合、個人から法人への在庫の「販売」は卸売行為に当たり、原則として行えません。在庫の扱いは事前に処分方法を含めて検討しておく必要があります。
全酒類卸売業免許・ビール卸売業免許は抽選で取得する性質のため、直近1年間の販売実績数量が一定以上ないと法人に引き継げない場合があります。とはいえ、これらの免許を個人で取得して法人成りするケースはほとんどないでしょう。
新設法人の経営基礎要件。
設立間もない法人は決算書の提出が不要となる一方、資本金や運営資金は酒類販売業を営むにふさわしい額である必要があります。
資本金の要件があるわけではありませんが、資本金1円や10万円といった会社の設立ではなく、しっかりと事業運営が出来そうな形態にしておくことが求められます。
まとめ
法人成りの場合、個人の酒類販売業免許をそのまま流用することはできず、法人として新たに免許を申請する必要があります。
ただし「法人成り等の取扱い」により、個人免許の取消申請と同時に法人の申請を行い、同一場所・人的要件・経営基礎要件・非休業といった条件を満たせば、免許条件をそのまま引き継ぐ形で、手続きを簡素化して切り替えることができます。
無免許期間や在庫の取扱いなど実務上の落とし穴もあるため、スケジュールは所轄税務署と事前に調整しながら進めるのが安全です。

